複数の電荷から受けるクーロン力は、それぞれの力をベクトルとして足し合わせれば求められました。では、その合力から、力を受ける側の試験電荷に共通する部分を取り出すと、何が見えてくるでしょうか。
この記事では、重ね合わせたクーロン力から電場を定義します。そのうえで、「試験電荷を置いていない場所にも電場はあるのか」「なぜ力だけでなく場を考えるのか」を漫画と動画で考え、最後に点電荷と複数電荷がつくる静電場を計算します。
この記事は、「クーロンの法則」と「重ね合わせの原理(クーロンの法則)」までの内容を理解している前提で進めます。
重ね合わせたクーロン力から電場を取り出す

「重ね合わせの原理(クーロンの法則)」で確認したように、真空中で静止している \(n\) 個のソース電荷が試験電荷 \(Q\) に及ぼす合力は、
$$\mathbf{F}=\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0}\sum_{i=1}^{n}\frac{q_i}{R_i^2}\hat{\mathbf{R}}_i$$
となり、\(Q\) をくくった形で次のように書けます。記号は前の記事と同じです。
$$\mathbf{F}=Q\left(\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\sum_{i=1}^{n}\frac{q_i}{R_i^2}\hat{\mathbf{R}}_i\right)$$
ここで注目したいのは、括弧の中に試験電荷 \(Q\) がないことです。括弧内は、ソース電荷の大きさと配置、そして調べる点 \(P\) の位置だけで決まります。そこで、この部分を点 \(P\) における電場 \(\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)\) と定義します。
$$\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\sum_{i=1}^{n}\frac{q_i}{R_i^2}\hat{\mathbf{R}}_i$$
ここで \(\mathbf{r}_Q\) は、試験電荷 \(Q\) を実際に置いていない場合にも、「\(Q\) を置くとしたら、その位置」を表す点 \(P\) の位置ベクトルです。
したがって、点 \(P\) に試験電荷 \(Q\) を置いたときに受ける力は、
$$\mathbf{F}=Q\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)$$
と書けます。つまり電場は、重ね合わせたクーロン力のうち、試験電荷 \(Q\) に依存しない部分に付けた名前です。
そもそも電場とは何なのか
式の上では電場を取り出せました。しかし、「試験電荷がない場所にも電場がある」と考えるのは、どういう意味なのでしょうか。まずは小萩と博士の会話で考えてみましょう。



試験電荷は、電場を調べるための探針

電場は、測り方からいえば、その場所に置いた正の単位電荷が受ける力を表すベクトルです。
$$\mathbf{E}=\frac{\mathbf{F}}{Q}$$
正の電荷が受ける力は電場と同じ向き、負の電荷が受ける力は電場と反対向きです。電場の単位は \(\mathrm{N/C}\) です。
\(Q\) があるから電場が生まれるのではありません。ソース電荷がつくる電場を、\(Q\) を使って調べると考えます。
場を考える大きな理由:変化は有限の速さで伝わる

静止した電荷だけを扱うなら、離れた電荷どうしのクーロン力を直接計算することもできます。しかし、ソース電荷の運動状態を変えたとき、遠方の電荷が受ける力まで同時に変わるわけではありません。
- 電荷や電流の状態が変化する。
- その周囲の電場と磁場が変化する。
- 電磁場の変化が空間を伝わる。真空中で伝わる速さは光速 \(c\) である。
- 変化が到着した場所で、そこにある電荷がその場所の電磁場から力を受ける。
このように、場を使うと「空間の各点で何が起き、変化がどのように隣の場所へ伝わるか」を記述できます。遠方の電荷に力が一瞬で飛ぶのではなく、場の変化が伝わって力を受けるという局所的な因果関係を表せることが、場を考える大きな意味です。
ただし、電荷が動けば必ず電磁波を放射するという意味ではありません。放射が現れる典型例は、電荷が加速する場合です。真空中を等速直線運動する電荷は放射しません。
静止した試験電荷が受ける電気力は \(\mathbf{F}=Q\mathbf{E}\) です。試験電荷自身が速度 \(\mathbf{v}\) で運動している場合には、磁場 \(\mathbf{B}\) も含めたローレンツ力 \(\mathbf{F}=Q(\mathbf{E}+\mathbf{v}\times\mathbf{B})\) へ拡張されます。この式は磁場の記事で詳しく扱います。
動画で「場の変化が伝わる」様子を見る
ここでは磁場や放射の詳しい式には進まず、発生源の変化が空間へ広がることだけを3本の動画で先取りします。
往復する電気双極子から広がる電磁場
正電荷と負電荷の組が変化すると、電磁場はどう広がる?
正電荷と負電荷が少し離れて一組になったものを、電気双極子といいます。ここでは、この正負の電荷の組が周期的に変化するとき、その周囲の電磁場がどのように広がるかを見てみましょう。
正負の電荷の組が周期的に変化すると、中心付近で生じた電磁場の変化が周囲へ広がります。矢印そのものが飛んでいるのではなく、矢印は各時刻・各位置における電場と磁場の向きと大きさを表しています。
円運動する電荷のまわりの電磁場
円運動する電荷は、速さが一定でも速度の向きが変わるため加速しています。その周囲の電磁場は時間変化し、静止した点電荷の放射状の電場だけでは表せません。
電場と磁場がつくる3次元ベクトル波
自由空間を進む平面電磁波では、電場と磁場は互いに直交し、波はその両方に垂直な方向へ進みます。静電場から始めた電場の考え方が、磁場と結びつくことで、空間を伝わる波へ発展します。
ここからは、時間変化しない電荷がつくる静電場に話を戻し、電場の向きと大きさを具体的に計算していきます。
1個の点電荷がつくる電場

ソース電荷 \(q_1\) の位置を \(\mathbf{r}_1\)、電場を求める点 \(P\) の位置を \(\mathbf{r}_Q\) とします。「重ね合わせの原理(クーロンの法則)」と同じ記号を使うと、
$$\begin{aligned}\mathbf{R}_1&=\mathbf{r}_Q-\mathbf{r}_1\\R_1&=|\mathbf{R}_1|\\\hat{\mathbf{R}}_1&=\frac{\mathbf{R}_1}{R_1}\end{aligned}$$
です。1個の点電荷がつくる電場は、
$$\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q_1}{R_1^2}\hat{\mathbf{R}}_1$$
となります。位置ベクトルだけを使えば、
$$\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{q_1(\mathbf{r}_Q-\mathbf{r}_1)}{|\mathbf{r}_Q-\mathbf{r}_1|^3}$$
です。分母が3乗に見えますが、分子のベクトルの大きさが \(R_1\) なので、電場の大きさは距離の2乗に反比例します。
正電荷なら外向き
\(q_1>0\) なら、電場はソース電荷から外向きです。正の試験電荷を置いたとき、反発する向きに力を受けるためです。
負電荷なら内向き
\(q_1<0\) なら、電場はソース電荷へ向かう内向きです。ここでいう電場の向きは、正の試験電荷が受ける力の向きです。
複数の電荷がつくる電場
複数のソース電荷があるとき、その点の電場は、各電荷がつくる電場のベクトル和です。
$$\begin{aligned}\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)&=\mathbf{E}_1(\mathbf{r}_Q)+\mathbf{E}_2(\mathbf{r}_Q)+\cdots\\&\quad+\mathbf{E}_n(\mathbf{r}_Q)\\&=\sum_{i=1}^{n}\mathbf{E}_i(\mathbf{r}_Q)\end{aligned}$$
これは新しい法則を追加したのではなく、冒頭でクーロン力を重ね合わせて \(Q\) をくくった結果そのものです。各電場はベクトルなので、大きさだけでなく向きも含めて足します。
- 各ソース電荷から観測点 \(P\) へ向かう \(\mathbf{R}_i\) を求める。
- 各電荷がつくる電場 \(\mathbf{E}_i\) を求める。
- \(x,y,z\) の各成分を足して、合成電場 \(\mathbf{E}\) を求める。
動かす前に予想:正電荷と負電荷を近づけると、2つの電荷の間の電場はどのように変わるでしょうか。また、電荷から遠ざかると、矢印の向きと明るさはどう変わるでしょうか。
正電荷と負電荷をドラッグし、矢印の向きと明るさを観察してください。矢印は正電荷から出て負電荷へ向かい、明るい部分ほど電場が相対的に強いことを表しています。
うまく操作できない場合は、電場シミュレーションを別画面で開くこともできます。
数値例:2つの電荷がつくる電場

前の記事のクーロン力の例と同じ配置を使い、今度は試験電荷を置く前の電場を求めます。
- \(q_1=q_2=+1.00\,\mu\mathrm{C}\)
- \(\mathbf{r}_1=(-2,2)\,\mathrm{m}\)
- \(\mathbf{r}_2=(-1,-2)\,\mathrm{m}\)
- 電場を求める点:\(\mathbf{r}_Q=(1,0)\,\mathrm{m}\)
クーロン定数を \(k=1/(4\pi\varepsilon_0)\approx8.99\times10^9\,\mathrm{N\,m^2/C^2}\) とします。
電荷q1がつくる電場
$$\begin{aligned}\mathbf{R}_1&=\mathbf{r}_Q-\mathbf{r}_1\\&=(1,0)-(-2,2)\\&=(3,-2)\,\mathrm{m}\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}\mathbf{E}_1&=kq_1\frac{\mathbf{R}_1}{R_1^3}\\&=kq_1\frac{(3,-2)}{13\sqrt{13}}\\&\approx(5.75\times10^2,-3.84\times10^2)\,\mathrm{N/C}\end{aligned}$$
電荷q2がつくる電場
$$\begin{aligned}\mathbf{R}_2&=\mathbf{r}_Q-\mathbf{r}_2\\&=(1,0)-(-1,-2)\\&=(2,2)\,\mathrm{m}\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}\mathbf{E}_2&=kq_2\frac{\mathbf{R}_2}{R_2^3}\\&=kq_2\frac{(2,2)}{16\sqrt{2}}\\&\approx(7.95\times10^2,7.95\times10^2)\,\mathrm{N/C}\end{aligned}$$
2つの電場を足す
$$\begin{aligned}\mathbf{E}&=\mathbf{E}_1+\mathbf{E}_2\\&\approx(1.37\times10^3,4.11\times10^2)\,\mathrm{N/C}\end{aligned}$$
大きさと、\(x\) 軸の正方向から反時計回りに測った向きは、
$$|\mathbf{E}|\approx1.43\times10^3\,\mathrm{N/C},\qquad \theta\approx16.7^\circ$$
です。この点に \(Q=+1.00\,\mu\mathrm{C}\) の試験電荷をけば、
$$\begin{aligned}\mathbf{F}&=Q\mathbf{E}\\&\approx(1.37\times10^{-3},4.11\times10^{-4})\,\mathrm{N}\end{aligned}$$
となり、クーロン力を直接重ね合わせた結果と一致します。先に空間の電場を求めておけば、そこへ置く電荷 \(Q\) が変わっても、最後に \(Q\) を掛けるだけで力が分かります。
30秒で復習

複数の点電荷がつくる電場
$$\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)=\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\sum_{i=1}^{n}\frac{q_i}{R_i^2}\hat{\mathbf{R}}_i$$
その場所に置いた電荷が受ける力
$$\mathbf{F}=Q\mathbf{E}(\mathbf{r}_Q)$$
- 電場は、正の単位電荷が受ける力として定義されるベクトルである。
- 電場は試験電荷 \(Q\) ではなく、ソース電荷と観測位置で決まる。
- 複数の電荷がつくる電場は、各電場をベクトルとして重ね合わせる。
- 場を使うと、電磁場の変化が有限の速さで伝わり、変化が届いた場所で電荷が力を受けるという因果関係を表せる。
- 静電場の式は、時間変化する電磁場や放射をそのまま表す式ではない。
次は、電場の中で電荷を動かすのに必要な仕事から、電位と電位差を考えます。
