静電気学
電磁気学は基本的にある電荷が別の電荷に及ぼす力を解明する学問です。
ただし電荷が運動している場合、力の計算は非常に複雑になります。
そのため、最初は次のようなシンプルな状況で議論します。
静止しているソース電荷(力を与える側の電荷)があり、そこに試験電荷(力を受ける側の電荷)を置いた時、その試験電荷がどのような力を受けるか。
このように、静電気学では少なくともソース電荷(力を与える側の電荷)は静止している状況です。
力を与える側と受ける側を分けていることも特徴ですね。

クーロンの法則
静止している電荷\( q \)が、距離\( R \)だけ離れた電荷\( Q \)へ及ぼす力\( F \)はいくらになるでしょうか。

この力\( F \)は次式で表されるクーロンの法則で計算できます。
$$ \displaystyle F = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ}{R^{2}} $$
これは実験によって導き出された数式です。
この数式をみると分母が距離\( R \)の2乗になっていますので、距離の2乗に反比例して力が小さくなります。
例えば、電荷間の距離が2m場合に働く力は距離が1mの場合と比較して、1/4の力になります。
- 距離が1mの場合
-
\( \hspace{10pt} \displaystyle F = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ}{1} \)
\( \hspace{20pt} \displaystyle = \frac{qQ}{4 \pi \varepsilon_{0}} \)
- 距離が2mの場合
-
\( \hspace{10pt} \displaystyle F = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ}{2^{2}} \)
\( \hspace{20pt} \displaystyle = \frac{1}{4}\frac{qQ}{4 \pi \varepsilon_{0}} \)
距離が離れるとどんどん力が小さくなる感じですね。
また、\( \varepsilon_{0} \)は真空中の誘電率と呼ばれるもので、正の定数です。(\( \varepsilon_{0} = 8.85 \times 10^{-12} \))
\(\pi\)や\( R \)も正ですので、力\( F \)は電荷\( q \)と\( Q \)が同符号の場合に正、異符号の場合に負となります。
「電荷」のページで解説したように、同符号の電荷は反発しあい、異符号の電荷は引っ張り合いますので、力\( F \)が正の場合は反発する力、負の場合は引力になります。

この力\( F \)が正の場合は反発する力、負の場合は引力という話は分かりやすいですが、3次元空間上で力の方向を厳密に表現できません。
ベクトルを使ってクーロンの法則を表現することで、この問題は解決できます。
ベクトルを使った表現
ベクトルを使ってクーロンの法則を表現することで、3次元空間上で力の方向を厳密に計算することができます。
基本的に電磁気学ではベクトルを多用します。
クーロンの法則のベクトル表現はその最初の一歩です。
電荷\( q \)、\( Q \)の位置ベクトルをそれぞれ\( \mathbf{r’} \) 、\( \mathbf{r} \)とした場合、クーロンの法則は次式となります。
$$ \displaystyle \mathbf{F} = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ(\mathbf{r}-\mathbf{r’})}{|\mathbf{r}-\mathbf{r’}|^{3}} $$
下のグラフのように\( \mathbf{r’} \) 、\( \mathbf{r} \)のベクトル差\( (\mathbf{r}-\mathbf{r’}) \)は必ず電荷\( q \)から\( Q \)へ向かうベクトルになります。
\( |\mathbf{r}-\mathbf{r’}| \)はベクトル\( \mathbf{r’} \) 、\( \mathbf{r} \)の差の大きさ、つまり電荷\( q \)\( Q \)間の距離です。
(このグラフは回転できます)
先ほど出てきたクーロンの法則では電荷間の距離\(R\)の2乗に反比例していましたが、この式では分母が電荷間の距離の3乗になっています。
一見すると力は3乗に反比例してしまい、先ほどの式と矛盾しているように見えます。
しかし分子に\( (\mathbf{r}-\mathbf{r’}) \)があるため、結局は先ほどの式と同様に距離の2乗に反比例することになります。
次にこの式を簡略化していきますが、その過程でその事が分かってくると思います。
まずは\( \mathbf{r’} \) 、\( \mathbf{r} \)のベクトル差を
\( \hspace{10pt} \boldsymbol{\zeta} = \mathbf{r}-\mathbf{r’} \)
とすると、
\( \hspace{10pt} \displaystyle \mathbf{F} = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ\boldsymbol{\zeta}}{|\boldsymbol{\zeta}|^{3}} \)
ここで\( |\boldsymbol{\zeta}| \)(ベクトル\( \boldsymbol{\zeta} \)の大きさ)を単に\( \zeta \)、ベクトル\( \boldsymbol{\zeta} \)の単位ベクトルを\( \hat{\boldsymbol{\zeta}} \)とすると、次式のように簡潔な表現になります。
$$ \displaystyle \mathbf{F} = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ}{\zeta^{2}} \hat{\boldsymbol{\zeta}} $$
力が距離の2乗に反比例することが明確に読み取れる式になったかと思います。
例題
座標(1,0,1)に置かれた電荷\(q(1[C])\)が、座標(0,1,1)に置かれた電荷\(Q(2[C])\)に及ぼす力\(F\)を求めてください。
\( \hspace{10pt} \boldsymbol{\zeta} = \mathbf{r}-\mathbf{r’} \)
\( \hspace{20pt} = (0,1,1)-(1,0,1) = (-1,1,0) \)
ですので、
\( \hspace{10pt} \zeta = \sqrt{(-1)^{2} + 1^{2} + 0^{2}} = \sqrt{2} \)
\( \hspace{10pt} \displaystyle \hat{\boldsymbol{\zeta}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(-1,1,0)\)
よって、
\( \hspace{10pt} \displaystyle \mathbf{F} = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{qQ}{\zeta^{2}} \hat{\boldsymbol{\zeta}} \)
\( \hspace{20pt} \displaystyle = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{2}{2\sqrt{2}} (-1, 1, 0) \)
\( \hspace{20pt} \displaystyle = \frac{1}{4 \pi \varepsilon_{0}} \frac{1}{\sqrt{2}} (-1, 1, 0) \)
\( \pi \)や\( \varepsilon_{0} \)は単なる定数ですので、これで力の方向と大きさを3次元空間上で数式で厳密に表現できました。
グラフにすると次のような感じになります。
ただし、力\( \mathbf{F} \)の大きさ(グラフ上のベクトルの長さ)は適当です。
方向を確認していただければと。
両電荷とも正の電荷ですので、反発する方向を向きます。
なぜ距離の2乗に反比例するのか
クーロンの法則は実験に基づいて導き出された数式ですが、なぜ3乗でも1乗でもなく2乗に反比例しているのでしょうか。
これは電荷から何かが湧き出し、それが他の電荷に影響を与えていると考えると納得のいく点があります。
電荷から一定量の何かが湧き出し、それが3次元空間を等方向に広がっていくとします。
当然、それは湧き出した場所から遠くに行くに従って薄まっていきますが(言い換えれば、単位面積当たりを通過する量が減っていきますが)、どれくらいのペースで薄まっていくでしょうか。
電荷を中心とした半径\( R \)の球を考えた場合、その表面積は\(4 \pi R^{2} \)です。
つまり、表面積は距離の2乗に比例して大きくなります。
それは逆に言えば、単位面積当たりを通過する量は距離の2乗に反比例して減っていくことになります。
クーロンの法則の力が2乗に反比例して弱くなっていく事は、このような背景を部分的に映し出したもののようにも思えます。
この電荷から何かが湧き出しているというイメージは電磁気学を理解する上で重要なイメージとなります。