川に浮かべた小さな木の葉が水の流れを受けてくるくると回る。そんな様子を想像してみてください。
このとき水の流れは木の葉を回すように働いています。流れがその場所でどちら向きに、どれくらい回そうとしているか。これを数式で表すのが、ベクトル場の「回転(curl)」です。
まずは、この「流れの中で木の葉が回る」というイメージから始めましょう。矢印で表したベクトル場を動画で動かし、木の葉の回り方を見ながら、回転を計算する式へつなげていきます。
矢印を動きにすると、流れが見える
場所ごとに、向きと大きさを持つベクトルが決まっているものをベクトル場といいます。たとえば、次の図では、場所によって矢印の向きと長さが変わっています。

まずは、各場所の矢印の向きと長さを見てください。
このベクトルを「その場所での水の流れの速さと向き」として扱ってみましょう。次の動画のように。
小さな粒は、今いる場所の矢印が向く方向へ進みます。長い矢印の場所ほど速く、短い矢印の場所ほどゆっくり進みます。
同じベクトル場を、矢印・動く粒・流れの順に表示しています。
矢印を描いたベクトル図と、動画で見た流れは、同じベクトル場の違う見せ方です。
どの木の葉が回転する?
次に下図のようなベクトル場を考えます。
この流れに小さな木の葉を置いたら、どう動くでしょうか?
まず、次の4枚の葉のうち、どれが回転するか予想してみてください。


葉の上下・左右で、矢印がどう違うかに注目しましょう。
答えは次の動画で
なお、動画の葉は、その場所の回転を示す理想的な目印です。実物の細長い葉の変形や、流れに沿って姿勢が変わる現象まで再現したものではありません。
位置の変化と、葉の向きの変化を見比べてください。
| 場 | 葉の回転 |
|---|---|
| A:まっすぐなせん断流 | 回転する |
| B:円を描く流れ | 回転する |
| C:2つの作用が相殺する場 | 回転しない |
| D:放射状の静電場 | 回転しない |
まっすぐなせん断流でも、葉は回転しました。反対に、Cでは矢印の向きが交差しているのに、葉は回転しません。回転を知るには、流れ全体の形だけでなく、その点の周囲の違いを見る必要があります。
回転は、上下・左右の違いから生まれる
回転の正負を決める
まず、どちら方向の回転を正とし、負とするのかを決める必要があります。そうでないと、数値で表現できません。
紙面の右をx方向、上をy方向とします。z軸の正の側からこの平面を見るとき、反時計回りの回転をプラス、時計回りの回転をマイナスとして数えます。

場を \(\mathbf F=(F_x,F_y,F_z)\) と書きます。\(F_x\) は横方向、\(F_y\) は縦方向の成分です。葉を回す作用を、次の2つに分けてみましょう。

2つの作用の差が、その場所の回転を決めます。この図の例では、大きさが同じで向きが逆なので、合計の回転は0です。
① 左右で、縦方向のベクトル場が変化する
右へ行くほど上向きの成分が大きくなると、葉の右側を上へ、左側を相対的に下へ動かす作用が生まれます。これは反時計回り、つまりプラスの回転への寄与です。
$$\frac{\partial F_y}{\partial x}$$
この偏微分は、「x方向へ移ったとき、縦成分がどれだけ変わるか」を表します。
② 上下で、横方向のベクトル場が変化する
上へ行くほど右向きの成分が大きくなると、葉の上側を右へ、下側を相対的に左へ動かす作用が生まれます。こちらは時計回り、つまりマイナスの回転への寄与です。
$$-\frac{\partial F_x}{\partial y}$$
横成分の上下方向の変化率は \(\partial F_x/\partial y\) です。この値がプラスなら時計回りに寄与するため、反時計回りを正として数える式には、手前にマイナスが付きます。
2つを合わせたものがcurl
2つの寄与を合わせると、z軸まわりの回転は次の式になります。
$$(\nabla\times\mathbf F)_z=\frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y}$$
\(\nabla\times\mathbf F\) を、ベクトル場の回転、またはcurl(カール)と呼びます。教科書によっては、curlを「rot(ロット)」と書くこともあります。どちらも同じベクトル場の回転を表し、記号 ∇× と同じ意味です。
添字のzは、そのz成分、すなわちz軸まわりの回転に対応する量を見ていることを表します。
大きなベクトルがあるだけでは、回転があるとはいえません。たとえば、周囲の矢印がすべて同じ向き・同じ長さなら、2つの変化率はどちらも0です。
右手を握ると、curlの向きが分かる
先の例は単純化してz軸回りの回転だけにしていましたが、一般に3次元では回転はx軸、y軸、z軸成分を持ちます。
そこで回転(curl)を、ベクトルとして表します。
次のシミュレーションでは、xyz軸を切り替えて、各軸回りの回転の様子を見ることができます。
ドラッグでグラフを回転できますので、是非いろいろな角度から見てみてください。
xy平面を+z側から見て反時計回りなら、curlのz成分はプラスです。同じ回転を裏側から見ると時計回りに見えますが、curlベクトル自体が反転したわけではありません。見る側と軸の向きをそろえて判断しましょう。
軸を選び、「+側から」「−側から」を切り替えると、同じ回転の見え方を確かめられます。
回転の方向を覚えるの大変そうと思われた方は、安心してください。良い覚え方があります。
右手を使います。
右手の4本の指を回転方向に曲げ、親指だけを立ててください。親指が指す方向が、回転(curl)ベクトルの向きです。

4本の指が回転方向、親指が回転(curl)ベクトルの向きです。
回転(curl)の覚え方:添字を循環させる

3成分の式を別々に丸暗記するより、まずxy平面の図からz成分の式を思い出すと、符号を確かめやすくなります。
$$(\nabla\times\mathbf F)_z=\frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y}$$
次に、式の中の文字をすべて同時に \(x\to y\to z\to x\) と置き換えます。成分の添字だけでなく、微分する変数も一緒に変えるのがポイントです。
$$(\nabla\times\mathbf F)_x=\frac{\partial F_z}{\partial y}-\frac{\partial F_y}{\partial z}$$
$$(\nabla\times\mathbf F)_y=\frac{\partial F_x}{\partial z}-\frac{\partial F_z}{\partial x}$$
これらをx、y、z成分の順にまとめると、回転ベクトル全体は次の式になります。
$$\nabla\times\mathbf F=\begin{pmatrix}\frac{\partial F_z}{\partial y}-\frac{\partial F_y}{\partial z}\\[6pt]\frac{\partial F_x}{\partial z}-\frac{\partial F_z}{\partial x}\\[6pt]\frac{\partial F_y}{\partial x}-\frac{\partial F_x}{\partial y}\end{pmatrix}$$
上から順に、x軸まわり・y軸まわり・z軸まわりの回転に対応する成分です。
図で符号を確認し、添字と微分変数を同時に循環させます。
右手は「回転から軸の向きを知る」ために、添字の循環は「3成分の式を思い出す」ために使います。
まっすぐなせん断流:流れが直線でも、葉は回る
導入動画のAは、上側が左向き、下側が右向きに流れる場でした。中央から離れるほど、矢印が長くなります。このように、隣り合う層で流れがずれる場をせん断流といいます。
$$\mathbf F=(-\gamma y,0,0),\quad\gamma>0$$
\(\gamma\) は、上下に移ったときの流れの変わり方を決める正の定数です。

縦成分はどこでも0なので、左右の違いによる寄与はありません。一方、横成分は上へ行くほど小さくなります。
$$\frac{\partial F_y}{\partial x}=0,\qquad \frac{\partial F_x}{\partial y}=-\gamma$$
これを回転の式へ入れると、
$$(\nabla\times\mathbf F)_z=0-(-\gamma)=+\gamma$$
プラスなので、反時計回りです。葉の上側を左へ、下側を右へ動かす作用は、どちらも反時計回りに働きます。
中央の \(y=0\) では、場のベクトルは0です。それでも周囲には違いがあるので、中心の葉は位置を変えずに回転します。その点のベクトルが0であることと、回転が0であることは別です。
円を描く流れ:中心からの距離に比例する場
次はBのように、円周に沿ってベクトルが並ぶ場です。ここでは、中心から離れるほど、距離に比例してベクトルが大きくなる場合を考えます。
$$\mathbf F=(-\omega y,\omega x,0),\quad\omega>0$$
$$|\mathbf F|=\omega r,\qquad r=\sqrt{x^2+y^2}$$
中心に置いた葉に注目しましょう。葉の位置と向きがどうなるか、見てみましょう。
中心の葉に注目しましょう。位置は変わらず、葉と横の丸印の向きが変わります。

右へ行くほど縦成分が増えるので、左右の違いは反時計回りに寄与します。上へ行くほど横成分が減るので、上下の違いも反時計回りに寄与します。
$$\frac{\partial F_y}{\partial x}=\omega,\qquad -\frac{\partial F_x}{\partial y}=+\omega$$
$$(\nabla\times\mathbf F)_z=\omega-(-\omega)=2\omega$$
この例では、2つの寄与が同じ回転方向に加わります。
結果に位置を表すxやyが残らないので、回転はどの場所でも同じです。中心ではベクトルが0でも、周囲の違いは残っているため、葉は回転します。
2つの作用が相殺する場:それぞれの作用があっても、回転は0
Cの場は、2つの作用が逆向きに働く例です。次の場では、円を描く流れとは横成分の符号が異なります。
$$\mathbf F=(ay,ax,0),\quad a>0$$
右へ行くほど縦成分が増えるので、左右の違いは反時計回りに寄与します。一方、上へ行くほど横成分が増えるので、上下の違いは時計回りに寄与します。
同じ大きさで逆向きの寄与を重ねると、合成した場の葉は回転しません。
$$\frac{\partial F_y}{\partial x}=a,\qquad \frac{\partial F_x}{\partial y}=a$$
$$(\nabla\times\mathbf F)_z=a-a=0$$
どちらの変化率も0ではありませんが、差し引くと0になります。場が変化していないのではなく、回転させる2つの寄与が釣り合っているのです。
この結果にもxやyは残りません。そのため、中心だけでなく、すべての場所で回転は0です。他の2成分も0なので、curlベクトル全体が0になります。
放射状の静電場:なぜ回転しない?
最後のDは、正の点電荷を置いた場合に生じる放射状の静電場です。正の点電荷の周囲では、電場のベクトルは中心から外へ向き、中心に近いほど大きくなります。まずは電場を仮の流れとして見てみましょう。
葉は外へ移動しますが、右横の丸印は同じ側を向いたままです。
中心からの距離をrとすると、この場は次の式で表せます。Kは場の強さを決める正の定数です。
$$\mathbf E=\frac{K}{r^3}(x,y,z),\quad K>0$$
$$r=\sqrt{x^2+y^2+z^2},\qquad |\mathbf E|=\frac{K}{r^2}$$
ベクトルの式の分母は \(r^3\) ですが、\((x,y,z)\) の長さがrなので、電場の大きさは \(1/r^2\) に比例します。動画は、中心を通るxy平面を表示しています。
中心の右上でも、2つの寄与は釣り合う
中心の真横だけでなく、右上にある点を考えてみましょう。右へ離れると縦成分が小さくなり、左右の違いは時計回りに寄与します。一方、上へ離れると横成分が小さくなり、上下の違いは反時計回りに寄与します。

左右の違いは時計回り、上下の違いは反時計回り。同じ大きさで相殺します。
実際に、縦成分 \(E_y\) を \(x\) で偏微分してみましょう。ポイントは、距離 \(r\) も \(x\) によって変わることです。中心を除く \(r>0\) の範囲で考えます。
$$E_y=Ky(x^2+y^2+z^2)^{-3/2}$$
\(y,z\) を固定するので、\(Ky\) は定数として扱えます。合成関数の微分では、外側のべき乗を微分し、内側の式の微分を掛けます。
$$\frac{\partial}{\partial x}(x^2+y^2+z^2)=2x$$
したがって、
$$\frac{\partial E_y}{\partial x}=\frac{Ky\left(-\frac{3}{2}\right)\cdot 2x}{(x^2+y^2+z^2)^{5/2}}$$
$$\frac{\partial E_y}{\partial x}=-\frac{3Kxy}{r^5}$$
となります。\((x^2+y^2+z^2)^{5/2}=r^5\)を使って整理しました。
横成分 \(E_x\) を \(y\) で偏微分する場合も同様です。今度は \(Kx\) を定数として扱い、内側の微分から \(2y\) が出るため、同じ結果になります。
$$\frac{\partial E_x}{\partial y}=-\frac{3Kxy}{r^5}$$
回転の式では2つを引き算するので、
$$(\nabla\times\mathbf E)_z=-\frac{3Kxy}{r^5}+\frac{3Kxy}{r^5}=0$$
この相殺は右上だけでなく、中心を除くどの位置でも成り立ちます。ほかの2成分も同様に相殺するため、
$$\nabla\times\mathbf E=\mathbf 0\quad(r>0)$$
となります。外へ広がる場であっても、その場所を回す作用は釣り合っているのです。
中心そのものは点電荷の位置です。そこではこの電場を定義できないため、中心に葉を置いて「回転は0」と説明することはできません。
3次元の例:円形の導体が作る磁場
今までは平面上に分布したベクトル場の回転を見てきました。
最後に、3次元の例を見てみましょう。
次の動画は、太さのある円形の導体に定常電流を流したときの磁場です。青い光が磁場を、金色の矢印がその場所での回転ベクトルを示しています。
導体の内部では、回転ベクトルが生じます。 金色の矢印は円周の接線方向を向き、場所によってその向きが変わります。
導体の外部では、回転ベクトルはゼロです。 青い流れが大きく曲がっていても、その場所での回転があるとは限りません。
小さな回転から、ストークスの定理へ

ここまでは、ある場所での「小さな回転」を見てきました。実は、この小さな回転を、面全体で足し合わせると、その面の縁に沿った「一周の循環」と結びつきます。
この関係を表すのが、ストークスの定理です。何をどのように足すかは、線積分を学んだあとで詳しく見ていきましょう。ここでは「その場所での回転が、周囲を一周する量につながる」という予告までにとどめます。
ここまでの例から分かったこと
まっすぐな流れでも、周囲に回す作用があれば回転します。中心のベクトルが0でも、回転が0とは限りません。反対に、場所ごとに場が変化していても、2つの寄与が釣り合えば回転は0です。
回転を調べるときは、葉のまわりに戻って、「左右で縦成分がどう変わるか」「上下で横成分がどう変わるか」を比べてみてください。そこから、curlの式と符号を思い出せます。
30秒で復習


回転は「その場で回す作用」。
小さな木の葉を目印に、周囲の場が葉を回す作用を考えます。流れがまっすぐでも、中心のベクトルが0でも、回転することがあります。
計算は「2つの違いの差」。
xy平面では、「左右で縦成分がどう変わるか」から「上下で横成分がどう変わるか」を引きます。2つの寄与が釣り合えば、回転は0です。
向きは「右手」で確認。
右手の4本の指を回転の向きに曲げると、立てた親指がcurlの向きを示します。
